インド映画でちょっと休憩

インドに愛を込めて

【レポート】サラーム海上のエキゾ夢紀行番外編:これでインディアのアルカカットが目撃したヒンディー語映画の10年

先日、ヒンディー語映画のトークイベント(講演会?)に行ってまいりましたので、そのレポートになります。

こういう有料のイベントって、どこまで書いちゃってよいのやら…?w

 

渋谷にあるアップリンクさんにて。

アップリンクさんは『恋する輪廻オーム・シャンティ・オーム』の配給等、インド映画ファンにも馴染みのあるところです。

さて今回は、サラーム海上さんのイベントの、ヒンディー語映画の回。

和光大学講師の村山和之さんと、ゲストはアルカカットさん。

 

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開演前。↑スクリーンの横に座ってるのが、左からサラーム海上さん、アルカカットさん、村山和之さん。

ちなみにスクリーンに映ってるのは、リティク・ローシャン(『Krrish3』)。

 

アルカカットさんは日本のヒンディー語映画ファンにとってなくてはならないサイト「これでインディア」を運営されていた方。(過去形なのは、現在日本に帰国されたので、インド現地から更新はなくなってしまったため)

 

私も、今までたくさんお世話になったサイトです。もう、教科書というかバイブルというか…。

「映画評」は、結末まであらすじが書いてあるので、予習には使いにくいですが、英語字幕でちょっと理解しづらい時は復習として読んでいましたし、映画には書かれてない背景(社会情勢とのつながりや、俳優・スタッフの情報)も書いてあり、それはそれは勉強になります。映画のみならずインド全体の事柄も載ってます。

そんな方の講演でした。

私のレポの前に… 今回スライドを見ながらお話を聞いたんですが、そのスライドが早速アルカカットさんのブログ(現在進行形)にアップされてたのでリンク貼っておきます~

スライドかな~りの量あるよ!

 

講演会は多分3時間くらいだったと思います。みっちり。

参加されてたのは80人くらい?あの部屋が入れるのがそのくらいらしい。

 

内容としては、「インド映画とは何ぞや?」とか「ボリウッド云々」とか、初心者的な解説はすっ飛ばして、中級者向けな感じ(中級者がどの辺の方を指すかは置いといてw)でした。その辺は冒頭で、初歩的な解説は飛ばします的なニュアンスの前置きがありました。

 

講演の合間合間のキリの良いところで、2001年~2012年のその年ごとの代表的なダンスシーン動画が流れました。結構探すの大変だと思いますのでリンク貼っておりますね。(重くなるから埋め込みはなし)

↑のスライドだと、時々挟まれる白地のがそれです。

2001 『Dil Chahta Hai』より「Koi Kahe Kehta Rahe」動画(youtube)

リアルな若者像が描かれヒットした青春映画。アーミル・カーン、サイーフ・アリ・カーン、アクシャイ・カンナー、プリーティ・ズィンタ出演。アルカカットさんがインド留学初年に観た映画で、インドの青年たちと映画に新しい風を感じたそうです。あと、この辺までダサかったディスコソングがこの曲から洗練されてきたそう。

2002 『Company』より「Khallas」動画(Youtube)

セクシーな女性が映画内で1曲だけ登場する(つまりその女優さんはストーリーに関係ない)“アイテムナンバー”の流行の先駆けとなった曲。この曲ではイーシャー・コッピカルがそれ。アイテムナンバーに出る女優さんの事“アイテムガール”と呼びまする。こういうアイテムナンバーは映画の宣伝に使ったり出来るんだけど、あんまり使いすぎると主演女優がヘソ曲げたり、宣伝の逆効果になったり。ちなみにコレ以前もアイテムナンバーそのものは存在してました。

2003 「Kaanta Laga…Remix」

過去の作品のリミックスが流行。そのきっかけともなった曲。この曲は映画の曲ではないけど、映画音楽に多大に影響を及ぼしたそうで、2003年の代表として流れました。リリース自体は2002年。

2004 『Main Hoon Na』「Tumse Milke Dil Ka Jo Haal」動画(Youtube)

カッワーリーの先駆け。カッワーリーとは超ざっくり言うと、イスラム神秘主義(スーフィズム)と深い関係にある宗教歌謡。私このヴァイオリン鳴るくだり好き。

2005 『Bunty Aur Babli』より「Kajra Re」動画(Youtube)

“アイテムナンバー”の代表。しかもアイテムガールが一流の女優。さらには、この1曲に将来の嫁(アイシュワリヤ・ラーイ)・旦那(アビシェーク・バッチャン)・父(アミターブ・バッチャン)が出演してるという面白い1曲。エルザこの曲大好きです。この曲知ってる方、たくさんいらっしゃると思います(…という感じで会場では最後までは流さずw)。

2006 『Rang De Basanti』より「Rang De Basanti」動画(Youtube)

パンジャービー地方の曲がベースのバーングラー音楽。リズミカルな曲調がポイント。この映画自体も社会情勢やインド愛国心に絡んだ骨太作品なので、アルカカットさんオススメ。

2007 『恋する輪廻オーム・シャンティ・オーム』より「Deewangi Deewangi」動画(Youtube)

近年では最も豪華なアイテムナンバー。ゲストが錚々たるメンバー。しかも一瞬しか登場しない。サラーム海上さんが「これは日本でレンタルとかもあるので皆さんご自宅で観てくださいね~」と言って動画途中でストップしようとしたんだけど、その瞬間プリヤンカー・チョプラが登場し、「あっ…」とフリーズ。サラームさん大のプリヤンカーファンなので、会場大爆笑w。

2008 『スラムドッグ$ミリオネア』より「Jai Ho」動画(Youtube)

作曲はインド映画音楽界の代表ともいえるA.R.ラフマーン。北・南両方で活躍。この映画自体はイギリス映画だけど、この曲は元々別のインド映画(Yuvvraaj)の為に作られた曲らしいっす。

2009 『Dev D』より「Emotional Attyachar」動画(Youtube)

映画の中身は“現代版Devdas”。なんというか、すごく個性的。アルカカットさん達、何て言ってたっけ…w

2010 『Dabangg』「Munni Badnaam Hui」動画(Youtube)

こちらもアイテムナンバー。アイテムガールはマライカ・アローラ・カーン。歌詞の中に、カリーナー・カプールのあだ名“ベボ”や、サイフ・アリ・カーンとアミターブ・バッチャンのそっくりさんとか登場してます。

2011 『Rockstar』より「Sadda Haq」動画(Youtube)

ヒンディー語映画とロック音楽のつながりはまだまだ最近の話で、アルジュン・ラームパルも出演している『Rock On!』から。『Rockstar』の音楽担当はA.R.ラフマーン(この人色んなジャンルの曲作れて多才すぎ!)↑のリンクの映像は実際に会場で流れた映像とほんのちょっと違うけど、どっちもチベット国旗ちらっと見えますね。私未見のDVD持っておりますので、今度その辺も確認しておきます。

2012 『Gangs of Wasseypur』より「Hunter」動画(Youtube)

女性音楽監督スネーハー・カンワルカルの台頭。実はカリブ海にインド系移民が多く、そこの音楽チャトニー・ソングが逆輸入された形。ヒンディー語映画界で女性が活躍してきた例。長い歴史の中で、女性が裏方のスタッフとして活躍してきたのは最近の傾向。

 

 

以下自分が印象に残った話。(小さい文字のところは自分の感想です。アルカカットさんたちの解説ではないので注意。)

1.映画の産業化

・映画が銀行からお金を借りる事ができるようになったのは2000年。…結構最近だね!

・映画の売上の7割が映画館の収入。のこり2割がTVの放送権利料、のこり1割がDVD・CDの売上。…とリライアンスCEO談。具体的な数字を聞いたのは初めてなのでびっくり。

2.マルチプレックス時代

・最近だと日本人旅行者が初めてインドの映画館に入ると、平日昼間&シネコンだったりするので、ちょっと盛り上がりに欠ける(ガラガラだったりする)。できるならシングルスクリーン(収容人数1000人とかの)でインド人とまみれて観た方がたのしい。

・インドのシングルスクリーンはかなり大きいので、日本のシネコンに対する“単館系”と思うとまたちょっと違うものになる。

・シネコン登場からしばらくは、地方&大衆層を無視した都会的な映画が作られる傾向にあったが(シネコンでのヒットが映画のヒットとして重要視されたため)、00年代後半から地方にもシネコンが増えてきたので、都会の上流層だけでなく地方・大衆層向け映画へ回帰の傾向に。

3.ジャンルの多様化

・本当に色々作られるようになってきた(詳しくはスライドにて)これは色々映画を漁ってるとひしひしと感じます。

4.ヒングリッシュ映画

・ヒングリッシュ映画(インド人による英語の映画)が一時期隆盛の傾向にあったが、ヒンディー語映画自体にも英語がかなり混ざるようになり、また完全英語だと違和感が残るため、現在は下火に。現在は、ハリウッド映画にインド人俳優が出演したりと、英語の映画に俳優が出る機会も多い。代表だと『ライフ・オブ・パイ』や『スラムドッグ・ミリオネア』、イルファーン・カーン、アニル・カプール等。

5.100カロール・クラブ

・以前のヒットの基準は上映週数。25週・50週・75週・100週にはそれぞれ名前も付いている。上映週数でよく話に出てくるのが『DDLJ』で、現在950週。もうすぐ1000週になるので、その時にはニュースになるかも。上映している映画館のオーナーが『DDLJ』が大好きらしい。映画の序盤に主演のカージョルがタオル1枚でダンスするシーンがあるが、それ目当てに男性の観客が結構観にきてるらしい。そのシーンが終わると帰っちゃうとかw

・現在は日本同様オープニング重視の傾向。上映初日(だいたい金曜日)と土曜・日曜の興行収入でヒット判定が出る。

・非ヒット→ヒットの順は、「Disaster」「Flop」「Average」「Hit」「SuperHit」「Blockbuster」「Alltime(Lifetime)Blockbuster」。 ・あと大ヒットの基準として“100カロールクラブ”がある。ちなみに100カロール=10億ルピー(約16億円)。…が、現在は物価高騰&スクリーン数の増加で、それ以上の200カロールの興行収入をたたき出す映画も出てきた。

・100カロールクラブ入りの条件は、映画の出来と実はあまり関係ない。大衆向け映画、スター(3大カーンとか)映画、リメイクや続編、過剰な広告戦略をしている映画がクラブ入りしやすい。その辺ではサルマン・カーン強い。

・2013年は100カロール超え映画大量に登場。『Chennai Express』『Krrish3』『Dhoom:3』『YJHD』『Grand Masti』『Bhaag Milkha Bhaag』『Ram Leela』『Race2』

6.デリー派

・今まで映画の中心は撮影場所も物語の舞台もスタッフもムンバイーが中心だったが、最近はデリーが存在感を増すように。(アルカカットさんはここで「デリー派」と命名)

・ムンバイーが中心だと、母語ではない場合が多いので(ムンバイーはマラーティー語)、ヒンディー語は教科書的。ユニバーサルな映画を作りやすいが、その代わりリアルな雰囲気が出しにくい。

・ヒンディー語映画なので、やっぱりヒンディー語が母語の人が作った方がいいのではという傾向に。デリー出身、デリーの大学出身の監督の台頭。リアリスティックなヒンディー語、北インドの都市や農村が舞台、ヒンディー語圏の文化や問題を扱った映画が増加。

7.女性像の変化

・女優の存在感が増してきたのはもちろん、裏方として活躍する女性もかなり増加。女性監督色々。女性プロデューサー(俳優の奥さんがやってるの多い)、女性音楽監督もちゅうもくされるように。

・女性が主人公、女性目線のストーリー、女性が共感しやすい映画も徐々に作られるように。→女性向け市場

・やっぱディヴィヤ・バーランすごいね。女優メインの映画でしっかりヒット。

・個性的な女性キャラの増加。自分を主張する女性、現実世界と近いリアルな女性像が描かれるように。

8.恋愛映画の変化

・一目ぼれが時代遅れに …とここで笑いが起きる会場

・10年単位で長い時間をかけて恋愛が成就する映画もヒット

・以前は結婚がかなり神聖視されていた。例えば主人公に恋人がいる状態で見合い相手が現れる話だと、結婚前だと恋愛関係にある男女の勝利、結婚後だと結婚関係にある男女が最終的に結ばれる傾向にあったが、最近はそうでもなく結末の予想が困難に。…エルザは昔のお堅い感じが好きです…予想しやすいので

・「式場のオーナーです」な『Haan Maine Bhi Pyaar Kiya』がウケる。

9.映画と社会

・ヒンディー語映画は社会を変える力を持っている。決して娯楽が少ないからとかではなく、ですよ!

オマケ

・アルカカットさんオススメ映画

2001『Lagaan』

2002『Devdas』

2003『Kal Ho Naa Ho』

2004『Veer Zaara』

2005『Parineeta』

2006『Rang De Basanti』

2007『Jab We Met』

2008『Rab Ne Bana Di Jodi』

2009『3 idiots』

2010『Guzaarish』

2011『Zindagi Na Milegi Dobara』

2012『Gangs of Wasseypur』

私2010年と2012年の以外は観終わってるので、制覇目指してみようと思います!

 

 

たっぷり3時間、「何本か観てるよ~」とか「ある程度スターの名前覚えたよ~」って方向け、と~っても濃い内容の講演会で大満足!中には、「これでインディア」で詳しい解説があるお話もあったので(以前読んだ記憶ある)、まだ読んでないって方は探してみてはいかがでしょうか?

なにより、インドを内から見てきた方のお話は色々勉強になりました!

また開催してほしいな!…大学でこんな授業あったら毎週しっかり出席しそうw

 

ではでは、この辺で~。

何か思い出したら追記するかも。