インド映画でちょっと休憩

インドに愛を込めて

あなたが勘違いしてるかもしれないインド映画

Twitter見てると、インド映画に関しての勘違いが散見されるのでまとめてみました。

インド映画に関しては、物珍しさでイメージ先行している感じ印象があります。

 

2021/11/16更新 

①ボリウッド≠インド映画

ボリウッドは大雑把にいうとムンバイ(ボンベイ)中心に制作されるヒンディー語映画です。

『バーフバリ』シリーズが話題になりましたが、テルグ語(+タミル語同時)製作なので、ボリウッド映画ではありません。また、『ムトゥ 踊るマハラジャ』に代表されるラジニカーント主演の映画はタミル語です。

タミル語圏の映画はコリウッド、テルグ語映画はトリウッドと呼ばれることもあります。ですが、現地の業界の人はこの言葉をあまり好んで使わないようです。もじりですしねぇ~。

同じ国内といえども基本的に言語・文化的に違いが多く、映画文法も違いがあります。ちなみにどこもその土地の個性にあふれた映画になっています。文字で明確に違いを説明するのは難しいですが、見慣れれば違いも分かってくるし、ボリウッドが南のスタイルをマネしているときも「あ、コレ南っぽいな」とわかったりもします。ちなみに言語を境界とする業界にはゆるいつながりがあり、たまに南インドで活躍していた俳優や監督・スタッフがヒンディー語映画に進出する場合があります。そこからホーム以外でもスターになったり、またホームに戻ってきたりもあります。

ヒンディー語・タミル語・テルグ語以外にも、カンナダ語、マラーティー語、ベンガル語ほかいろいろあります。風味がそれぞれ違うので見比べてみるのも面白いです。

インド映画はまだまだ日本のメディアが知識を持ってないので、間違った情報を提供していたりします。普段インド映画に触れない映画評論家があっさり寄稿専門的なサイトを持った方々がいらっしゃいますので、そちらの方が俄然参考になります。興味を持った方は色々読んでみてください。

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↑参考:テルグ語・タミル語圏映画から進出してきた女優Asin。いまは結婚してほぼ引退。

 

②踊るのはたくさんあるインドの言語の垣根を超えるためではありません

言語が違うと理解されにくいから、ダンスで表現している!という説ですが、これは間違っています。なぜなら、踊ったところで他の地域の言語は理解できないからです。ヒンディー語はヒンディー語映画、タミル語はタミル語映画、ベンガル語はベンガル語映画で製作され、業界も成り立っています。つまり、ヒンディー語映画を観る人の主な層はヒンディー語話者、タミル語映画はタミル語話者など、それぞれが独立しているものとして考えられるので、わざわざヒンディー語で作られたものをタミル語話者の人が頑張って観る…というのは大半の例としてはありません(そりゃ、日本人がインド映画観る状況が存在するわけですから、タミル語話者がヒンディー語映画を観る状況だって0ではないと思いますが)。そして、もし例えばヒンディー語映画を他言語話者に観てほしい場合は、吹替え版が存在します。ヒンディー語で作られた映画に、他の言語の声をあてるものです。そうすれば、問題なく他言語地域でもお客さんを呼べます。吹替えはヒット作や超大作では普通に行われることです。逆にヒンディー語話者向けに他地域の映画の吹替え版が作られることもあります。他には、とある言語で作られ、ヒットした映画が、他言語地域のスターを主役に変えリメイクされることもあります。同時に二言語で公開したい場合(だいたいの場合が大作映画)は、同時進行で二言語分撮影されることもあります。

踊りに頼らなくても、吹替えやリメイクで垣根を超えられるのです。

 

③踊るのは宗教のしがらみやNGな恋愛描写をクリアするためではありません

確かにインドは宗教の力が強く、倫理観も日本人のそれより厳しく、恋愛も新しい価値観を表現しようとすると反発が多いです。特に宗教においては「神話を歪曲する表現だ」「歴史を冒とくしている」などと圧力も多く、裁判沙汰になることもしばしば。(言いがかりも多く、裁判では映画側に有利な決定がされることが多いです)

でも男女の恋愛描写は、ラブストーリーがジャンルとして成立しているくらいあります。キスシーンもたくさんあります。セクシーなシーンになると描写レベルにより公開時に年齢制限がかかりますが、普通に上映できます。年齢制限がかかることで言えば日本だって同じです。恋愛描写=感情の高ぶりとして曲とダンスで表わされる手法は行ってると思いますが、恋愛描写だけがダンスで表現されるわけでもないし、表現を全てダンスに頼るほど規制に困ってはいないです。

踊りがふんだんに挿入される理由はわかりません。インド以外のミュージカル映画や舞台と同じく、理由を求めない方がいいと思います。

 

④ずっとは踊ってないです

凝り固まったイメージが長年蔓延しすぎたせいで、「インド映画=最初から最後まで踊ってる」と思っている方が多くいらっしゃいます。

いや、そんなずっと踊ってないですから。

『きっと、うまくいく』をそういったイメージをもったまま観に行った方は、メインのダンスシーンが2曲ということに「あれ、インド映画っぽくないなぁ」と思うかもしれません。でも、『きっと、うまくいく』は普通にインド映画らしいインド映画です。

日本人に強烈なインパクトを残した『ムトゥ踊るマハラジャ』ですらずっと歌って踊ってではありません。歌ってないシーンの方が多いです。しっかりストーリーが存在しますし、メッセージも込められているすばらしい映画です。

ちなみにダンスシーンがない娯楽映画も増えてきています。『マダム・イン・ニューヨーク』 『女神は二度微笑む』 『バルフィ!人生に唄えば』はどれも評価が高い作品です。

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「インド映画は毎回踊ってる」「インド映画なのに踊ってない」論については、「日本映画はチャンバラ映画」と言ってるくらい乱暴なまとめ方だと思っています。チャンバラ映画って今でも作られないことはないし、外国人にサムライが知られてるのはわかるけど、だからってそればっかりじゃないじゃないですか。チャンバラ映画好きな人だって興味ない人だっている、ストーリーに合わなければチャンバラシーンが入らないのと似ていて、ダンスシーンがあるインド映画好きな人も興味ない人もいるしストーリーに合わないと判断されればダンスが入らないってことです。

 

⑤実は俳優・女優さんは歌ってません

歌やダンスのシーン、踊りながら口を動かしているので俳優さんたちが歌っていると勘違いしてしまうと思いますが、実は専門の歌手(プレイバックシンガー)が居て、基本的にその人たちが声をあてています。

なので、「歌って踊る」は厳密に言うと「(歌手が)歌って(役者が)おどる」「(口パクで)歌って踊る」が基本です。ハスキーな声の女優さんが歌いだすと超高音美声ということもザラにありました。今は歌手の方も低い声が多くなってきてそんな違和感も少ないんですが。

でもホントに役者さんが歌ってる時もあります。歌の上手い役者さんも時々いて、そんな時はよく宣伝に使われています。あと、歌手から役者に手を広げる方もいます。その辺は日本とあまり変わりないかも。

 

⑥太ったオッサンばかりではありません

髭の濃い主演俳優や、ニコニコ動画でガタイのいい人が踊ってるのをみて「太ったオッサンがなぜかヒーロー役」とよく言われますが、オッサンばかりではありません。イケメンな主役もゴロゴロいます。南インドもイケメンがゴロゴロいます。30~50代、はたまたそれ以上やそれ以下の人がたくさん活躍するのは、インドでもハリウッドでも日本でもそう違いはありません。あ、でも若づくりは多いかもw あと、ラジニはあんまり太ってません。オッサンとしては普通かなと思います。いつか観た時のは脚がけっこう細かったですw

テルグ・タミル・ヒンディー語映画とマルチに活躍するSiddharth君は濃い顔だちながらもとてもかわいらしいお顔です。かわいらしいとか言ったら本人に失礼かもしれませんが。

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↑参考:Siddharth君。

 

⑦ダンスはセックスシーンが入れられないための代わりではありません

たしかにインドは日本やアメリカに比べてキスシーンやセクシーなシーンは少ないですが、存在します。もちろん普通の映画でそういうシーンもあります。セクシーなシーンが多かったり程度が強かったりするとインド基準に沿った年齢制限がかけられます。ハリウッドでもアメリカ基準の年齢制限がかけられるのでインドに限った特別なことではありません。

セクシーなシーンの代わりにダンスシーンが入る例は0ではないと思いますが、私がいままで観た映画だとそんなダンスシーンに遭遇する方が稀でした。男女が恋愛感情を持った時にダンスシーンが入るのはよくあることですが、あれは主人公達の気持ちの代弁のようなものです。見慣れない日本人にとっては異質に感じるかもしれませんが、ただ単に「すきだ」というより、体いっぱい声いっぱいに踊って歌って表現したほうがより映画としてわかりやすいし観客の方も入り込みやすいのです。そして群衆を引き連れて踊ってるからといって必ず恋愛感情を表現しているわけではないです。映画の序盤に入れられる主人公の自己紹介的な歌だったり、クラブのDJの曲に乗るようなただ単にストーリーの都合上や場繋ぎで入った歌だったりもします。

 

⑧法律で9つの感情「ナヴァラサ」を入れないといけないとは決まってません

そんな法律がある国嫌ですw

この間違いはインド映画に興味を持ち出した人が聞きかじった勘違いですが、これは冗談です。

ナヴァラサは芸術の世界で存在はします。「愛情」「怒り」「悲しみ」「恐怖」「驚き」「力強さ」「嫌悪」「笑い」「平安」の感情を意味するサンスクリット語だそうです。多くの映画がこれを取り入れて作られていますが、無い場合も多いです。

 

⑨法律でハッピーエンドにしないといけないとは決まっていません

むしろ何でこんな間違いが起こるのかわかりません。「インドだからあると思って」とか意味が分かりません。インドだから何でもアリ?いやいや違うでしょう。インドだって普通の人が普通に暮らしてますから。インドのイメージを飛躍させすぎです。悪役が主役の映画だってあります。ハッピーエンドが人によって解釈が違ってしまう映画だってあります。もともとハッピーエンドって人によって解釈違いますからね。敵・ライバル役に感情移入してしまえばハッピーエンドもバッドエンドですからね。

 

⑩インド映画は長すぎる?

「長い」「短い」は個人の受け取り方次第ですよね…。体感。確かにインド映画は長めだとは思いますwDVDが発売されるそこそこの規模のインド映画の平均はだいたい130分~180分くらいです。大作になると力がより入るのか180分前後の割合がちょっと高くなる気がします。(注:この時間は別に統計をとったわけではなくて、私が触れてきたインド映画から記憶を辿って計算したものです)ですが、4時間、5時間なんて映画はほぼありません全てのインド映画を確かめたわけではないので0とは言えませんが、あったとしても一般的ではありません。もし4~5時間に及ぶ上映時間になったら、前後篇に分けるか、宣伝で大々的にネタにすると思います。(4~5時間については、たまにネットでそう思い込んでる人の発言を見かけるので出してみました)

130分~180分だと、忙しい合間を縫って見に行く人にはつらいときもあるかもしれません。休憩なしの日本の映画館じゃ腰はいたくなるしトイレを気にして飲み物にも気を付けないとってなるので、慣れない人にとってはつらいかもしれません。かくいう私も、家で見る時、あと数十分少なければこのタイミングで観れるのに…と思ったことが多々ありますw

ここまで書きましたが、私はインド映画が超長い映画とはあまり思ってません。ハリウッドも普通に長い映画は存在します。ディズニーアニメ映画は大体90分くらいですが、007シリーズは2時間超えです。タイタニックも、ロードオブザリングも。大作だとハリウッド映画も長めの映画が少なくありません。インド映画『タイガー 伝説のスパイ』はその頃上映されていた007より10分短いです。

全体的にみると確かに長めの作品が多いと思います。それでもハリウッド大作に見慣れている方はそんなに気にするほどではないと思います。(こういうこと書くと、ハリウッド嫌いなのかと思われがちなんですが、わたしハリウッド映画好きですよ~。大好きな作品たくさんあります。)そういえば『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』はシリーズ最長150分で、巷では長いと言われたり言われなかったりしたっぽいですね。私は長く感じなかったですw

 

⑪日本で公開されるものは短くカットされていないのがほとんどです

3時間に満たない上映時間の時ほぼ毎作品で一般人の感想に「カットされていると思う」という記述を見かけますが、だいたいが予想に反してカットされてないものです。ごくごく一部の例外を除き、現地と同じ長さのものが上映されます。カットされたものがゼロではないですが(後述)、スタート地点として「オリジナルはもっと長くて日本に合わせて短くしているんだろう」という発想で受け止めるのは間違っています。先入観持ちすぎだし偏見に近いです。

インターナショナル版も存在しますが遭遇するのは映画祭の方が頻度高いかな(体感)。ちなみにカットするとしても、日本で編集作業することはかなり珍しい方です。そもそもこちらで配給する会社は大手じゃないところも多くてわざわざハサミを入れるほどの資金が潤沢にあるとは思えない…。最近カットされているバージョンが上映されたのは『バーフバリ』『ロボット(1作目の方)』『チェイス!』など。この3作はいずれも後で完全版がリリース(上映/セル版どちらか)されています。

 

⑫『スラムドッグ$ミリオネア』はインド映画ではありません

『スラムドッグ~』のなかなか良い映画です。アカデミー賞獲りましたしね。あの映画はイギリス人監督ダニー・ボイルの映画です。役者やスタッフにインド人がいますが、イギリスの資本でイギリス映画です。インドの負の部分を題材にしてるので、内容に関してはインドから反発もありました。

最後に踊るので余計インド映画に見えたと思います。あのダンスで興ざめ…という方もよくみかけます。それはとても残念です。あれはオマージュでしょう。インドに敬愛をこめてあのエンディングにしたのだと思います。

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さいごに

誰が言ったかわからない余計な知識を増やす前に、多くのインド映画に触れてみた方が何倍も楽しいです。 その中でわからなかった事、知りたくなった事を補足していけばいいんじゃないでしょうか? 日本で公開されている作品だけでも面白い・楽しい映画はたくさんあります。是非見てください。