2013年公開
出演:ダヌシュ(クンダン・シャンカル)
ソーナム・カプール(ゾーヤー・ハイダル)
スワラー・バースカル(ビンディヤー・トリパーティー)
アバイ・デーオール(アクラム・ザイディ)
ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブ(ムラーリー・グプタ)
監督:アーナンド・L・ラーイ
言語:ヒンディー語+日本語字幕
時間:139分
媒体:スクリーン(IFFJ2014/ヒューマントラストシネマ渋谷シアター1)
2019年に出した同人誌『インド映画でちょっと休憩』で書き下ろしたものの再録になります(加筆あり)。
あらすじ
バラナシのタミル系ヒンドゥー僧侶家庭に生まれたクンダン(ダヌシュ)は、幼少の頃からイスラーム教徒のゾーヤー(ソーナム・カプール)を一途に想っていた。やっとのことで告白したクンダンは、紆余曲折ありながらもゾーヤーの恋人となることができた。しかしそれから間をあけず、ゾーヤーはヒンドゥー教徒と付き合っていることが家族にばれてしまう。バラナシから遠く離れた親戚の家へと預けられることになってしまったゾーヤー。クンダンとゾーヤーは逆らうことができず、長い間距離を置くことになってしまう。
数年経ち、クンダンはすっかり青年になった。そして、ゾーヤーもやっとバラナシの家族の元へ帰省することになった。この日を待ち望んでいたクンダンは意気揚々と彼女に会いに行くが、デリーの大学生活を満喫していたゾーヤーは、すっかりクンダンの存在を忘れていた。しかも、彼女には秘密の恋人がいることがわかり──。
いろいろ
愛と贖罪、執着と献身、依存と帰依の物語。
2014年に観て以来もう数年経つにも関わらず、未だに私の中で答えが見つかっていない作品です。答えというか、どう解釈したらいいのかまとまらないというか。自分がこの映画に対しどういう解釈をし、どういった感想を持っているか、人に伝えきれるだけのキャパがないんです。それに、鑑賞を重ねるたびに前回の解釈に疑問が生まれたり新しい気付きがあったり…。それでも、私はこの映画の力に圧倒され、打ちのめされたことは伝えておきたいと思って、できる限り書くことにしました。
この映画を観たのは秋の映画祭。上映が終わって席を離れた後でも涙が止まりませんでした。観終わった後は気持ちがぐちゃぐちゃで、何か言おうとしたら涙が出てしまうくらい。真っ直ぐすぎる主人公が眩しかった。まぶしすぎる。ラストに畳み掛ける人間の様々な感情に押しつぶされ、映画館から出てもまだ泣いてました。当時からあまりちゃんとした感想が言えないくらい感情が渦巻いてて、ここまで泣いたのは先にも後にもこの映画だけでした。
普通のつらいだけの話だったら、好みじゃない単なる映画の一つとして消化していたと思います。だけどこの物語は、主人公がある意味目的を達成していることや、主要キャラクターが感情で殴り合ってるさまや、もはや恋で片づけられる感情ではなく崇拝と赦しのステージであることなど、普通の恋愛物語から逸脱した大きな波にのまれたような感覚に陥り、初見ではわけもわからず呆然とするほどの体験でした。2度3度見ても全てを理解できず、新たにああでもないこうでもないと解釈が生まれ、新しい気付きも起きておさまりません。
キャラクターの魅力。結構人間臭かったです。品行方正なザ・ヒーローと誰にも愛されそうなヒロインは出てきません。一人ひとりが個人相手に複雑な感情を抱いていて、乱暴にまとめると"泥沼"です。クンダンはヤンデレっぷりが男性主人公としては異様なくらいですし、ゾーヤーはかなりしたたか。特に後半は真っ黒い感情が飛び交います。人間臭い部分で言うと、ゾーヤーの終盤の嘘とか企みとか、あれはあれでよろしくない事ではあるのだけど、行動力されあれば実際ああいう行為に至る人間は居ると思いました。起きていることは異常なんだけど、行動原理は異常ではない。物語上ヒロインをかなり神聖的な位置に置いているにもかかわらず人間のエグい部分をヒロインが担っているのが驚きで。そう、ゾーヤーがヒロインなんですけど、クンダンの運命を左右するという意味では悪役でもありました。
人間臭い面、精いっぱい生きているんですよね。全力です。時折取り返しのつかない間違った行動を取っているんですが、100%力を尽くしているように受け取れます。だから人の死を扱いながら生命力に満ちたキャラクターたちでもありました。太く短くって表現が近いかもしれません。クンダンの幼馴染ムラーリーとビンディヤーは主役2人に比べると普通だけど、それでも彼らもそれぞれ何かの"ラーンジャナー"として全力でした。
ॐ भूर्भुवः॒ स्वः
オーム ブール ブワッ スヴァハ
物質界、心の世界、因果の世界に満ち満ちている
かな?
この物語は「ヒールとラーンジャー」をモチーフにしています。「ヒールとラーンジャー」との共通点はありますが、ベースというには違うところも多いので、原作というほどではなくモチーフだと思います。「ヒールとラーンジャー」は、パンジャーブに伝わる悲劇的な恋愛物語の一つで、めちゃめちゃざっくりいうと「ロミオとジュリエット」の結末に近いです。『Raanjhanaa』というタイトルはこの「ラーンジャー」が連想されるため、「ヒールとラーンジャー」を知るインド人としてはタイトルだけでなんとなく雰囲気がわかるそう。
「ヒールとラーンジャー」の物語も読んでみたいんですが、日本語ではっきり詳細な物語が書かれているものがみつからず、苦戦してます。短くまとめられたあらすじはネットで探せばあります。物語の中に詩が含まれてるらしいから日本語じゃないと難しいんですよね…。
ARラフマーンの曲がとってもよかったです。爽やかで少し甘く、力強くて。お話はどろどろしているのに、曲はすごい清々しいんです。でもぴったりなんです。キャラクターが人間くさいのも、なぜか清々しい曲が合うのも、キャラクターたちが感情にストレートで精一杯生きた証だと考えています。
きっと、観た人が全員「良かった」なんていう作品じゃないと思います。それは、ずっと楽しい話ではないところと、どことなく日本人には理解しにくい世界観(人生観・宗教観)をベースにしている気がするからです。私は日本語字幕で観たにも関わらず、全て理解できている自信は全くありません。でも、いろんな人が観て何かを感じる価値がある映画だと思っています。
リンク
「Raanjhanaa Hua Mai Tera」観た後この曲聞くと感情爆発するんだわ…
「Tum Tak」
「Banarasiya」可愛い曲(音が)なんだけど片思いの方向が交差しすぎてて切ない
おまけ
レビュー書くよりも前に関連記事書いてたので貼っときます