今日はシェイクスピアの没日から400年だそうです。
なんか果てしない数字にも見えます。同時に人の歴史の壮大さも感じます。400年も前に作られた芸術が今も人に愛されているというのがすごい。
ちょうど先週、インド映画の上映イベントがありました。上映されたのはシェイクスピアの四大悲劇のうちの3作をインド風に翻案した、「インド版シェイクスピア三部作」。「マクベス」をベースにした『Maqbool』、「オセロー」をベースにした『Omkara』、「ハムレット」をベースにした『Haider』どれもヴィシャール・バルドワージ監督の作品で、インドで高い評価を受けています。
実はすべて以前にDVD鑑賞済だったのですが、せっかくなので三部作まとめて感想書こうと心に決めていました。上映イベントはどれも日本語字幕でしたし、書くなら今がチャンス!ですよね!…ってな感じで書いていこうと思います。
Maqbool
公開:2004年
出演:イルファン・カーン
タッブー
パンカジ・カプール
ピユーシュ・ミシュラー
時間:132分
ムンバイマフィアのお話です。
イルファンがマフィアボスの部下ミヤーン・マクブール(=マクベス)、タッブーがイルファンの恋人でボスの愛人ニンミー(=マクベスの妻)
パンカジがマフィアのボスアッバージー(=スコットランド王ダンカン)
ピユーシュがイルファンと同等レベルの部下カーカー(=バンクォー)
マクダフやフリーアンス、魔女の役割もちゃんといました。
主演イルファンはもちろんのこと、『Maqbool』の白眉はニンミー役のタッブー。ストーリーをかき回す”爆弾”のような存在で、冷静沈着なはずのミヤーンをそそのかし、自分を含む全てを破滅に導いていきます。それがタッブーに合っていて、見た目は普通の美人なのに、何かしらの魔力を持っている人に感じさせました。すごく不思議な人です。
シェイクスピアの悲劇がベースなことに加えムンバイマフィア界が舞台なこともあり、かなり暗い仕上がりになっています。あと、2004年公開(映画祭では2003年に上映あり)ですので、画面が今とかなり違う作りです。見慣れてないと少し観づらいかもしれません。『Haider』くらいの年代のを観たあとにこれを観ると違和感すら感じます。
もしかして、ヴィシャール監督2作目で予算少なかったのかなあ、と思ったりしたのですが…。大手による配給じゃないっぽいですし。実際はどうなんでしょうね。
これは最初DVDで観た時の感想
おじさん俳優が好きな方には天国かもです。
「マクベス」で魔女のポジションは『Maqbool』で色んな人の側に立つ狡猾な警官2人。ナセールッディン・シャーとオーム・プリーが面白いです。めっちゃキャラ立ってます。ズルいです。萌えキャラです。
Omkara
公開:2006年
出演:アジャイ・デーヴガン
サイーフ・アリー・カーン
カリーナ・カプール
ヴィヴェーク・オベロイ
コンコナー・セーン・シャルマー
時間:155分
「Maqbool」は社会派や脇役で大活躍する俳優が多めでしたが、こちらはアジャイ/サイーフ/ヴィヴェーク/カリーナと娯楽系主演でも活躍する俳優が多い印象。
アジャイ(オームカーラー=オセロー)さんは激情型なキャラクターに合ってますし、サイーフ(ラングラー=イアーゴ)は笑った顔がなんとも狡賢そう。サイーフ悪役のほうが向いてるんじゃない?w
ヴィヴェーク(ケーシュー=キャシオー)は最近悪役もこなしてるけど昔はアイドル枠だったし、他2人に比べると”無垢”な感じが出ていていました。
カリーナ(ドリー=デズデモーナ)はアクの強い顔なのにキツい役も純真な役もこなせる才能の持ち主。カリーナすごい。どの役者さんもとてもキャラクターとマッチしてます。
「オセロー」ではデスデモーナのハンカチだったのが、『Omkara』ではオムカラー家の家宝・腰飾りに。オセローは黒人、オームカーラーはカーストの高い父とカーストの低い母の間に生まれた”ハーフカースト”(劇中にそういう発言あり)として、他人から差別されるポジションであります。ところで腰飾りは父親と母親どっちの家のものだったんだろうか…。
お話はけっこうゆっくりな印象でした。ラングラーの計略が始まってもなかなか転がり落ちるところまでいきません。「オセロー」の舞台を観たことないんですが、こんな感じなんですかね?オリジナルと見比べてみたい気もします。設定やキャラクター改変の点では三部作の中で一番オリジナルに近い印象でした。ノワール度は三部作の中で一番低いかも。
イメージとしてはサバナ気候かステップ気候な感じ。この辺て実際どの気候区分になるんだろう…。
ダンスらしいダンスシーンはビパーシャーが踊るこれ
「Beedi」
「Namak」
多くはないけどしっかりダンスシーンありました。
ソングシーンは公式が結構あります。予告動画がないんですけども。
Haider
公開:2014年
出演:シャーヒド・カプール
タッブー
シュラッダー・カプール
ケイ・ケイ・メノン
イルファン・カーン(特別出演)
時間:162分
あ、三部作で一番長いんですね~、今知りました。
個人的推し上位映画なので色んなタイミングで言っててすごく今更感があるわけですがw
初めて観た時はあまり推し映画じゃなかったんですよ。なんでだろうか。やっぱり好みの楽しい映画じゃないから評価厳しくしてなのかな。一方でシャーヒドにはもっとめちゃめちゃになってほしかったとか言ってた記憶があるw
でも既に4~5回は観てるんすよね。土日くらいしか時間が取れないわりに大量に観るので4~5回もってなるとかなりお気に入りの部類なんですよ。
今回日本語字幕&視聴覚室的な場所で観たらちゃんと集中できたんで、環境大事だなって思いました。銃撃シーンとか音でかくて良かった。あと自分のメンタルが受け入れ態勢整ってたので観た時のメンタルも大事かもなって思いました。
インドとパキスタンが取り合いをしているジャンムー・カシミール地方が舞台です。
三部作の中では一番社会情勢が盛り込んであると思います。他2作品はマフィアの世界なのでリアルに近いかもだけどあんまり社会問題とか絡んでなかったですし。『Haider』観た時は「ハムレット」もカシミールの歴史も予習していたので、これあまり知らずに観てたらどのくらい理解できただろう…って気になります。知らなくても案外すんなり理解できたりするんだろうか?
ちなみに今回のイベントは廣瀬和司さんの詳しい解説付きでした。映画に出てくる収容所とか人物設定とかかなりリアリティを持たせてあるらしいです。「ハムレット」というとても古い戯曲と現代を絡ませながら、かつそこに現実も被せてくるっていう合わせ技。改めて『Haider』という作品の凄さを感じました。
物語で大まかなものは「ハムレット」をベースにしていますが、さすがに最後を言うとネタバレになりそうな…。改編は三部作のなかで一番されているかも。
主演のシャーヒド(ハイダル=ハムレット)はこの映画で今までのイメージを覆す程の熱演。今までちょっとアイドル寄りなキャラクターが多かったので、坊主になったり気が狂った演技してたり結構衝撃的でした。インドでもしばらく”Haider”がニックネームのような使われ方をしていたので『Haider』はシャーヒドの代表作として認知されているようです。
の次に印象的なのがタッブー(ガザラ=ガートルード)。『Maqbool』のニンミー役とセットでヤンデレ枠wハイダルを追い詰めるし暴走させるし。本人はそんな意図はないにしてもかなり後ろから糸引いてます…。最後まで、この母さん怖ろしい。
ケイ・ケイ・メノンは人を罠にはめる役をよくやってる気がするからお得意どころかしら?ハイダルに良い顔しつつ実はあれやこれやと汚いことやっててまーー嫌なキャラクターですね。しかしこちらも凄まじい状況に…これ以上は言わないでおこう。
今ノってるシュラッダーはヒロインとして頑張ってたけど、ハイダルの母さんの存在感強くてちょっと薄れちゃった気がする。映画賞もこの枠はあまりノミネートがなかった記憶です。
ほかにも色々キャラクター出てくるけど、ハイダルが一番まともな思考回路の持ち主すね。
三部作の中では一番新しいこともあり、公式動画めっちゃ揃ってます。予告動画やソングシーンはもちろん、メイキングやセリフに特化した動画も。いや~、いい時代っすね。
やっぱりここが一番のハイライトですよね、「Bismil」。
「ハムレット」にも存在してるシーンを使ってるってのも高いポイント。
最初から最後までほぼシリアスなシーンの連続ですが、インド映画ファンとしてはローゼンクランツとギルデンスターンのポジションのサルマン&サルマンがものすごいツボるわけでして。↓こいつら↓
サルマンのビデオ観ながら踊ってたり、外国人観光客にサルマンのビデオ勧めてたり。
何気にずっとサルマンのモノマネしてたり。ちょっとキモい笑い方なんかサルマンにそっくりw
で、劇中に出てきたサルマン映画、記録用に貼っときますね。
『Maine Pyar Kiya』から「Mere Rang Mein Rangne Wali」
サルマン&サルマン初登場シーンで2人がビデオ観ながらダンスしてたやつ。
『Sangdil Sanam』から「Main Hoon Deewana Tere Pyar Ka」
軍の人が映画館で観てたやつ。シリアスなシーンなのにこのテンション高すぎるモノ流す監督のセンスがヤバい。
↑動画が面白すぎるあまりDVD買ってしまったので今度観ますね。
三部作まとめ
三作すべてに言える事ですが、シェイクスピア作品から一部だけ借りたとか主役だけ持ってきたとかのレベルでなく、細かい部分まで落とし込んで仕上げているのがすごいです。オリジナルの脇役にもしっかり役割が与えられ、有名はセリフはそれとわかるように形を残しつつ手が加えられています。そしてインド風味も違和感なし。シェイクスピアとインドの相性が良かったのか、スタッフの手腕がすごいのか。どれも映画として素晴らしい出来なので是非観てください。